こころとからだ

なぜ「手あて」なのか?

なぜ「手あて」なのか?

僕が「手あて」を深めていこうと決心する大きなきっかけのひとつになった、
あるお客さんとの出会い。

5年前の記事です。

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◆2018年06月05日<10年間、笑うことを禁じてきた女性。>

5/26・27の週末は鹿児島に、
6/2・3の週末は大阪に。

2週連続で出張に出ていました。

「私の事例がどなたかのお役に立てるのなら、
どうぞお使いください。」

そう言っていただけたので、
鹿児島と大阪のセミナーでも、
その女性の話をしました。

その女性、Aさんとしますね。

Aさんには、
2月の終わり頃に、
初めてご来店いただきました。

怒りと悲しみが入り混じったような険しい表情で、
挨拶をしても、
カウンセリングが始まっても、
その表情を崩されることはありませんでした。

いくつかご質問をしても、
目を合わせてもらえず、
不愛想に単語だけで言葉を返す感じで、

「余計なことを訊くな」

という、
無言の圧力を感じました。

なので、
初回のカウンセリングは早々に打ち切って、
施術に入りました。

カラダに触れると、
とにかくものすごいこわばりで。

全身に鎧をまとっているようで。

僕の手も、拒まれているような感じがしました。

経験上、
そういう時に無理に緩めようとしても、
余計にバリアを張られてしまうだけなので。

僕は僕にできることだけを意識して、
あとはAさんが緩んでくれるのを待っていました。

最後の方になって、
やっと少し手が馴染んできたかな?

というところで、初回の施術は終了。

施術ベッドから起き上がったAさんの表情は、
入店時とほとんど変わらない、
険しい表情のままでした。

「施術効果、ほとんど出てないよなぁ。申し訳ないなぁ。」

と、思っていました。

「たぶん、もう2度と来てくれないだろうなぁ。」

とも、思いました。

ほとんど手ごたえを感じられなかったので。

ですが、Aさんは、

「わたしのような状態だと、どれくらい通えばいいですか?」

と、訊いてこられました。

そして、しばらく週1ペースで通っていただけることになりました。

2回目にご来店いただいた際も、
表情はこわばったまま。

ですが、
初回よりもちょっと、
僕の手を受け入れてもらえた感覚はありました。

3回目。

ほんの少しだけ、
表情が緩んで、
血色がよくなった感じがしました。

そして、3回目の施術中。

はじめて施術中に、
Aさんから話をしてくださいました。

「今、話をしても大丈夫ですか?」

「もちろんです。」

「実は、10年前に娘を亡くしたのです。
自死でした。
しかも、自死した日の朝に、
娘と激しい口喧嘩をしたんです。
私はそのまま仕事にいきました。
そして、その日の午後に、
職場に連絡があったんです。
自分を責めました。
娘をそのような形で死なせてしまい、
どう償おうか考えました。
自分も死ぬことを考えましたが、
なんとなく、
それは違うという気がしました。
そして、決めました。
娘の苦しみを背負って生きていこう。
背負い続けるために、
私は自分の人生から、
嬉しいことや楽しいことを排除すると決めました。
笑うことを、禁じようと決めました。
それから10年間、
1回も笑っていないんです。
化粧もしていないし、
洋服も買っていません。
テレビを観るのはニュースだけで、
生活のために仕事はしていますが、
遊びで外出することはありません。
でも、最近、
娘が夢に出てきたんです。
起きているときには毎日思い出します。
思い出すというよりは、
いつも心に娘がいます。
でも、不思議と、
夢に出てきたことはなかったのです。
それが、
最近はじめて、
夢に出てきたんです。
生前の最後の数年間は見ることのできなかった、
すごく穏やかな顔でした。
そして、娘が言ってくれたんです。
『お母さん、もういいよ。』
って。
目が覚めると嗚咽していて、
そのまま泣き止むことが出来ずに、
その日は仕事を休んで、
1日中泣いていました。
そして涙が枯れたころに、
ふと、
『笑ってみよう』
と、思いました。
鏡の前に行って、
笑顔をつくってみようと思いました。
でも、笑うことが出来なくなっていたのです。
どの筋肉をどう使えば笑えるのか、
わからなくなっていました。
無理に口角を上げようとしても、
顔が引きつるだけなのです。
なんとなく整体に行ってみようと思い立ち、
そこで見つけたのが、
照喜名さんのブログでした。」

そのようなことを、話していただきました。

言葉が出ませんでした。

何を言えばいいのかわからない。

しばらく沈黙が続きました。

すると、Aさんの方から、

「こんな重い話されても、どう返していいのか、わからないですよね。
いいんです。
慰めの言葉を求めているわけではないのです。
ただそうやって、
今まで通り、
手をあててもらっているだけでいいんです。」

情けないことに、
Aさんに助けてもらいました。

ただ、
僕はその言葉を聴いて、
安心して施術に集中することができました。

そして、その3回目の施術後。

Aさんの表情は、
だいぶ穏やかになりました。

その後も、
週に1回のペースで、
施術に通っていただきました。

4回目以降は、
たくさん話をしました。

しましたというか、
僕は聴いているだけでしたが。

そして、10回目のご来店時に。

Aさんは別人のようになっていました。

まず、お化粧をされていました。

美容室に行かれたようで、
髪もキレイに調えられていました。

そして、

「昨日、10年ぶりに服を買いました。
今着ているのが、その服です。
そして今日、10年ぶりに化粧をしてみました。」

自然な笑顔で、
そうおっしゃいました。

それが、
鹿児島出張に出る前でした。

「今度鹿児島に出張に行くのですが、
そこでAさんの話をしてもいいですか?」

「もちろんいいですよ。
その代わり鹿児島のお土産話、
聴かせてくださいね。」

で、鹿児島から戻り。

Aさんに、
鹿児島の土産話をしました。

「僕ですね、西郷どんに似てるって言われるんですよ。」

「似てますね(笑)」

自然に笑ってくれるようになりました。

事件は、その後に起こりました。

「西郷どんの顔が印刷されたポテトチップスの袋があるんです。
買ってきたので、見てください。」

といって、
西郷どんをお面にしてAさんとご対面。
(こんな感じ↓)

するとAさん。

声を上げて笑ってくれたんです。

爆笑。

やったぞ西郷どん!

しかも!

ツボにはまりすぎて・・・

Aさん爆笑しながら、
大きな屁をこいたんです。

ブフォッ!

って。

その屁で、
さらに2人で大笑い。

いやぁ、よかったです。

ほんとうによかった。

ということで、最後は屁オチでした。

Aさんの心の傷が、
完全に癒されたわけではないと思います。

ただ、
Aさんの生活の中に、
表面的であれ、
笑いが戻ったこと。

その瞬間を共有できたこと。

それは僕の大きな財産になりました。

Aさんのおかげで、
これからも自信を持って、
手あてを深めていこうと、
それを伝えていこうと思えました。

ありがとうございました。